シリーズ労働トラブル防止④ 退職届

今回は 退職届についてお話したいと思います。

「今更から退職届ですか」と思われた方もいるかもしれません。

しかし、退職届は、労働トラブルを防ぐ上で、実は重要な役割を果たします。

労働者の退職後のトラブルは、経営者の方が、想像している以上に多いのが現状です。

しかし、退職する労働者から必ず退職届を提出させることによって、無用な労働トラブルを防ぐことができるようになります。

今回は、退職届の重要性についてご説明させていただきます。

退職届が労働トラブル防止に効果的な理由

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労働者が、退職の申し出をする場合は、通常労働者本人の都合で辞める形となります。

ですから、「辞める理由が 本人にあるわけだから、トラブルが起こることは、無いのではないですか?」と思われる方も多いのではないでしょうか。

しかし、実際は、労働者が退職した後に、労働基準監督署やハローワークあるいは弁護士、労働組合等に「実は、本当は解雇させられたのです。」とか「パワハラ、セクハラを受けて辞めざるを得なかった。」というような訴えを起こすケースが、実は多いのです。

このような事態になった場合に、退職理由を示す客観的な証拠、つまり 退職届がもし無ければ、結局、言った言わないの水掛け論になってしまいます。

さらに、存知の通り我が国では、労働者保護の傾向が強いところがあります。

ですから、退職届がない場合には、どうしても解決に多大な労力と時間がかかってしまいます。

そして、もう1つ労働トラブルの大きな問題として、退職後のトラブルの場合、労働基準監督署の調査を受けたり、あるいは弁護士や労働組合から話し合いの申し出が来たりした場合には、どうしても経営者の方は、精神的に不安になってしまいます。

退職届は、必ずもらうことによって、このような、退職後のトラブルを防ぐことができるわけです。

もう少し具体的にご説明しますと、労働者に退職届を必ず提出させることによって、万一 その労働者が、自分は解雇させられたとか、あるいは実は、パワハラ、セクハラを受けて辞めざるを得ないということを本心で思っていた場合には、素直に退職届を書かないということが考えられます。

労働者が、退職届を書かないのであれば、「退職届を提出して下さい」と言われた時に、内心思っていることを、会社側に訴える可能性が、非常に高いわけです。

ここでポイントとなるのが、もし、そのような訴えがあった場合、その時点では、労働基準監督署、弁護士や労働組合、いわゆる第三者が関わっていないので、労働者と直接話すことができるわけです。

これは経営者の方にとっては、精神的不安が非常に少なくなる、直接話すことによって円満な解決を図ることができる可能性も高くなります。

万一、退職届を提出した労働者から、もし 解雇やセクハラ、パワハラ等の訴えがあった場合でも、退職届があるわけですから、「このように退職届があるし、本当に解雇させられたとかパワハラ セクハラを受けて辞めざるを得なかったと思っているのであれば、何故退職届を書いたのですか?」というように反論ができます。

このように、退職届を必ず労働者から提出させることによって、退職後の労働トラブルを防ぐこともできますし、万一労働者から訴えがあった場合でも、明確な反論ができ、トラブルをスムーズに解決することができる形となります。

ですから、労働者が、退職する場合に必ず退職届をもらうということは、労働トラブル防止に非常に効果があります。

これは、私の経験談なのですが、私が、社会保険労務士の仕事を始めて間もない頃、退職後のトラブルの相談が非常に多かったです。

私は、これではいけないと思って、経営者の方に「労働者が退職する場合には、必ず退職届をもらって下さい。」ということを機会あるごとにお伝えしました。

顧問先の社長さんから「今度、誰々さんが退職するから保険の手続きをお願いします」というような連絡があった場合には、「退職届もらっていますか?」と必ず聞くようにして、「いや、もらっていないのです。」ともし社長さんが答えるのであれば、「必ず退職届をもらって 下さい。そして、こちらにもその写しを下さい。」と繰り返し、繰り返しお願いして、労働者が退職する時には、必ず退職届をもらうようになってから、私の顧問先では退職後のトラブルというのは、本当にもう何年も起きていません。

ですから、労働者が退職の申し出をした場合には、必ず退職届をもらうということを実行していただければと思います。

退職届は退職の撤回時の対策としても有効

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退職届は、労働者の退職後のトラブル防止に対する有効な方策となりますが、それ以外にも 退職の撤回の問題の対策にもなります。

会社が、労働者を雇用するというのは、労働者が、労働力を提供して、会社は、労働力の提供の対価としての賃金を支払う、このような権利 義務関係に基づく契約を結ぶこととなります。

これを、一般的に労働契約あるいは雇用契約と言います。

そして、労働者が退職の申し出をした場合には、会社がその申し出に対して同意した時点で労働契約は合意解約される形となります。

となると、会社が、退職の申し出に対して同意した時点で、労働者は、退職の申し出の撤回ができなくなることとなります。

例えば、ある労働者が、1ヶ月後に退職したいという申し出をして、会社が「わかりました」と同意した時点で、合意解約は成立して、その後は、労働者が退職の申し出を撤回したいと言ってきても、会社はそれに応じる必要はあります。

しかし、その後労働者の方から、退職の申し出を撤回したいと言ってきた場合に、退職届が無ければ、退職の申し出の合意がどの時点であったのか、判断するのが難しくなります。

もし、退職の申し出が口頭のみで行われた場合で、「次の労働者の雇用が既に決まっているから、今、 退職の申し出の撤回を言われても困る。」と言った場合でも、「そうは言っても、退職の申し出を伝えた時、明確に承認してくれなかったではないですか」とか言われてしまえば、結局は、言った言わないの水掛け論になってしまいます。

このような場合に退職届があれば、労働者が退職を申し出たという明確な証拠となります。

ただし、退職届が提出されただけでは、どの時点で会社が同意したか、少し曖昧なところが残りますので、例えば、労働者が提出した退職届に会社が承認の印を押して、「退職を承認しました」ということを一言書いておけば、労働者の退職の申し出に対して同意したという明確な証拠となります。

もし、このような証拠があれば、仮に労働者が退職の申し出の撤回を言ったとしても、「もうすでに会社は、あなたの退職の申し出に対して同意しているから、あなたは退職の撤回をすることができません。」ということを明確に反論することができます。

このように、退職届は、退職の申し出の撤回に対しての有効な対策ともなりますので、繰返しになりますが、労働者が退職する場合には、必ず退職届をもらうようにして下さい。

まとめ

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労働トラブルを防ぐためには、テクニックやノウハウ、法律知識等は、もちろん重要ですが、それと同じぐらい重要なことが、「当たり前のことを当たり前にやり続ける。」この姿勢です。

実は、今回お話した退職届の提出は、まさにそれに当たります。

退職届を提出させるという、ある意味当たり前のことをやり続けることによって、退職後のトラブルを防ぐことができるわけです。

ですから、労働者が退職する場合は、どんな場合であっても必ず退職届を提出させる、これをやり続けることが、非常に重要となります。

実は、労働トラブルを防ぐための方法というのは、そんなに難しいものではありません。

例えば、今回のテーマの退職届の提出、決して難しいことではありません。

大切なのは、労働者が退職する場合には、必ず毎回退職届を提出させる、決して難しいことではありませんが、これをやり続けることが、労働トラブル防止には絶大な効力を発します。

労働トラブル防止で最も大切なことは、当たり前のことを当たり前にやり続ける、この姿勢です。

今回の退職届は、まさにそれに該当しますので、ぜひ今後のご参考になさって下さい。

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